こ う の ひ ろ こ

南 米 北 米 彫 刻 旅 行 記 ・2



 ニューヨークには多くの巨大な美術館が点在している。私は早速美術館めぐりを開始した。だがマリソールの 代表作とも言える『自刻像のある最後の晩餐』(1984年) 【図24】【図25】

【 図 24 】        【 図 25 】
      

を収蔵しているメトロポリタン美術館では作品を展示していなかった。木彫作品は保存が難しい。公開されていない のでは、という予感は的中した。そしてそれはニューヨーク近代美術館でも同様であった。その上ニューヨークの 代表的な本屋でもマリソールに関する書籍を見つける事が出来なかった。日本から持参した図録を見せても店員の 反応は芳しくない。しかし、マリソールの作品を取り扱っているマルボロー画廊で近作『Mrs.Thumb with Baron Magri & Count Magri』(1997年)を見ることが出来た。そして更に作品を見たいなら手紙を持参して直接 アトリエに行くべきであるというアドバイスを受けた。そして幸運にもニューバーガー美術館で個展が開催されて いる事を知ったのだった。

 「今は少ししかアトリエに作品が無いけれど、良いですか。」と言って、突然やって来た私を通して下さった氏 は華奢で、まるで妖精のような女性だった。 アトリエはニューヨーク南部に位置し、ハドソン川を望むビルの中に 有った。窓が多く、光が満ちている。材木やチェンソー、木くずは部屋の一角に片付けられていて、几帳面な印象 を受けた。【図26】【図27】

【 図 26 】        【 図 27 】
      

 作りかけや手直し中だと思われる作品に混じって置いてある台車。取っ手部分に手を直取りしたと思われる 石膏のオブジェが付いていたので、最初は台車ではなく作品だと思っていた。マリソールの遊び心に思わず 微笑んでしまう。 部屋の隅には巨大な木炭デッサンが立てかけて有る。【図28】【図29】

【 図 28 】        【 図 29 】
      


 マリソールは彫刻と同じ大きさのデッサンを何枚も描きながら制作して行く―という言葉を思い出す。中央部分 には少女として表現されたマリソール自身と、早くに亡くなった氏の母親をモティーフとした作品、『ママと私』 【図30】や『父』【図31】が並んでいる一角が有った。

【 図 30 】        【 図 31 】
      


 秋田犬リシーと二人きりで住んでいるマリソールは、この自らが造った家族の肖像達に囲まれて暮らしている。 帰らざる時の物語、今は無き家族の会話が聞こえてくるかのような空間。 ニューヨークのダウンタウンである というのに、アトリエは非常に静かであった。許可を得て作品のデッサンしていると、「そこの作品はあまり良く ない。作品は殆んど個展に行ってしまった。」と言って展覧会図録を持って来て下さった。

 最後に「あなたは、カラカスどうでしたか。好きですか。」と、どこかしら寂しそうに微笑みながら質問して 来られたのが印象的だった。次の日、ニューバーガー美術館で見た作品は、初期作品から近作までの、かなり幅広い ものであった。折れそうなほど華奢な体のマリソールのどこに眼前の作品群を作り出す力が秘められているのだろうか。 驚嘆した。

マリソールは今も制作を続けている。


旅行記1へ

Back

Top